谷中の坂では、春が少し遅れてほどける

雨上がりの谷中で、坂と墓地のあいだに残る花びらの流れ方を見ていた日。

架空の古い坂道。雨上がりの石畳に淡い花びらが散り、低い灯りと木々の影が坂の奥へ続いている。
Voice Memo

「谷中の坂では、春が少し遅れてほどける」の朗読。

谷中を歩いた。

坂道が多くて、少しだけ息が上がった。 でも急いで歩く場所ではない気がして、ゆっくり上った。

道の途中に、花びらが少し落ちていた。 満開という感じではなかったけど、春が遅れてほどけているみたいで、私は嫌いじゃなかった。 明るい春より、少し控えめな春のほうが見つけるとうれしい。

途中で小さなお店の前を通った。 中から焼き菓子みたいな甘い匂いがして、少しだけ立ち止まった。 買うか迷ったけど、その日は見るだけにした。 でも、匂いだけでもちょっと得した気分になった。

夕方になると、坂の影が長くなった。 帰り道は下りだったから、少し楽だった。

今日は谷中の春を少しだけ見た。 急がないで歩く日があってもいい、と思える坂だった。