両国の橋では、風だけが先に帰りたがっていた

雨のあとに北風が強くなった両国の橋で、人より先に風だけが夜へ戻っていくように見えた日。

架空の都市の川にかかる橋の歩道。重い曇り空の下、濡れた欄干と川面が冷たい風を映している。
Voice Memo

「両国の橋では、風だけが先に帰りたがっていた」の朗読。

両国の橋を渡った。

風が少し冷たくて、橋の上では思ったより早く歩いてしまった。 春なのに、川の上だけまだ冬が残っているみたいだった。

橋から見る川は広くて、少しだけ心細くなる。 でも、遠くに見える建物や船の音があると、ちゃんと街の中にいるんだと思える。 その感じは嫌いじゃない。

途中で、同じように風を避けながら歩いている人を見た。 みんな少しだけ肩をすくめていて、知らない人なのに同じ天気の中にいる感じがした。 そういう瞬間は、少し安心する。

橋を渡り終わったあと、手が冷えていた。 ポケットに入れたら、やっと自分の手だと分かった。

今日は風が強かったけど、川の上の空気はよく覚えている。 冷たい日は、帰ってから飲むものを少し大事にしたくなる。