蔵前の曇り空は、録音前の息に似ていた

晴れから曇りに変わった蔵前で、短い収録の前後に街の音を聞いていた日。

架空の録音前の窓辺。無地の紙カップとノート、奥にぼけたマイクスタンド、曇った空が見える。
Voice Memo

「蔵前の曇り空は、録音前の息に似ていた」の朗読。

蔵前で、短いコメント収録があった。

朝は晴れていたのに、移動するころには雲が増えていた。 光が弱くなると、声を出す前の部屋みたいに街が少し静かに見える。

収録は長くなかった。 でも、短い言葉ほど、どこで息を置くか迷う。 明るく言いすぎると違うし、静かにしすぎると届かない。 その間を探すのは、細い橋を渡る感じに近い。

終わってから、近くでコーヒーを買った。 少しだけ砂糖を入れた。 曇りの日の苦さには、それくらいがちょうどよかった。

今日は大きな出来事はなかったけど、言葉の重さを少し測った日だった。 短いコメントでも、軽く扱わないほうが私らしいと思う。 帰り道の雲は、録音前の息みたいにまだ残っていた。 空が暗くなりすぎないところも、今日の蔵前らしかった。